猫が移動しやすいようにしておくことが大切 健康

【獣医師監修】猫は熱中症になりにくいって本当?

2021年5月21日に環境省が初めて「ペットを車内に放置しないで」と注意喚起し、小泉進次郎環境大臣が「犬・猫は体温調節が難しい。改めて理解頂くことで救える命を救わなければいけない」と発表するなど、ペットの熱中症が注目を集めています。もっとも、犬の熱中症については予防策がよく知られるようになりましたが、猫の熱中症についてはあまり知られていません。また、現在、家庭で飼われているイエネコの祖先は約13万年前に中東の砂漠などに生息していたリビアヤマネコであることから、「猫は犬に比べると熱中症になりにくい」とも言われています。本当に猫は熱中症になりにくいのでしょうか?獣医師の小林充子先生に伺いました。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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猫が熱中症になりにくいというのは本当でしょうか?

(1) 条件が揃えば猫も熱中症になります
私が最近診察したのは、お年寄りが飼っている14歳の猫で、腎不全を患っている子です。お年寄りはクーラーをあまりつけたがらないことと、猫が腎不全で脱水気味だったこともあり、熱中症が進行してしまったようでした。飼い主様が気付いたときには、吐いたうえに口を開いて呼吸していたとのことです。体温を測ったところ40℃ほどありましたので、点滴をした上で体温を下げる処置を施し、入院をしていただきました。幸い、1日半くらいで回復しました。

(2) 猫は熱中症の見極めが難しい動物です
猫は犬と異なり、熱中症の見極めが難しいです。犬はハァハァとパンディング(口を大きく開き、浅く速く呼吸をすること)をし、体を触ると熱い場合は熱中症の疑いが濃厚です。
これに対して、猫の場合は口を開いて呼吸をすることがあまりありません。口を開けて呼吸するまでの時間が長いので、口を開けて呼吸したときには熱中症が進行してしまっている場合があります。
猫が口を開けて呼吸しない理由については諸説ありますが、猫は犬よりも体が小さいので酸素の要求量が少ないから、また常に周りの情報を取り入れるために嗅覚を最大限に利用しており、そのために空気を鼻から取り入れている、などと考えられています。
猫は狩りをするときを除いては、ほとんど寝て過ごします。狩りの一瞬で運動エネルギーを爆発させますが、持続的に運動をするわけではありません。よく「猫の運動会」といいますが、それも犬に比べるとひとときの運動にすぎません。あまり活動的ではないことから、口を開けて呼吸することがあまりないといわれています。

(3) 車で動物病院に行った帰りに「ちょっと寄り道」で車内放置は絶対ダメです!
かかりつけの動物病院が家から少し遠い場合、猫ちゃんをクレートなどに入れて車で通院される飼い主様も多いと思います。動物病院からの帰りに、猫を車内にいさせたままスーパーなどへ寄り道、ということは絶対に避けてください。
猫はそもそも、高低差があるところで生活する生き物です。暑くなると冷気がたまる下のほうや大理石、床の上などで寝そべり、冷房が効きすぎて寒いときはキャットタワーや棚などの上に昇ります。自分にとって最適な温度を、自分で判断しています。
ところが、車内ですと自分の判断で移動できません。熱中症の原因になりますので、車内放置は絶対にやめましょう。

家の中では「上下に移動できる」ようにしてクーラーで室温調整を

(1) 猫は「室内飼い」をするようにしましょう
現在、環境省も猫の室内飼育を推進しています。猫を屋外に出してしまうと、交通事故に遭う危険があります。また、東京でも、屋外にはノミがとても多いので、ノミを付けて帰ってきてしまうこともあります。地方によってはマダニを付けてきてしまうこともあり、猫と飼い主様の健康によくありません。夏に限らず、猫は必ず室内飼育をしてください。

(2) 猫は冷えすぎで体調を崩すこともあります
クーラーが効いた室内で飼育する場合、「冷えすぎ」にも注意が必要です。2021年の夏は台風が連続し、長雨が続いて寒暖差があったため、原因不明の胃腸炎でクリニックを受診する猫がとても多かったです。
診察したところ、吐いた、食欲がない、軟便、下痢などの症状があり、検査の結果肝炎でも膵炎でもなく、原因不明の胃腸炎としか診断できない猫が多くいました。

(3) ある程度自由に室内を移動できるようにしておけば、猫が居心地のよい場所を探せます
猫は自分で判断して、最適な温度の場所を探します。クーラーが効いた部屋にいるときでも、キャットタワーや家具などで高低差をつけてあげると、猫は自分にとって居心地のいい場所に移動します。ある程度、猫が自由に室内を移動できるようにしてあげましょう。
ただし、シニアの猫(9歳以上)は注意が必要です。シニアの猫はとにかく面倒くさがりで、移動したがりません。寒いな、と思っても、耐えられないほどでもないと判断するとそのまま居続けてしまい、胃腸炎などの体調不良を起こすことがあります。その猫にとって最適な室温は違いますが、クーラーの温度は25~28℃くらいに設定するのが無難でしょう。

(4) うちの子は暑い日に窓辺でひなたぼっこをします。やめさせたほうがいいですか?
現在、家庭で飼われているイエネコの祖先は砂漠などに生息していたリビアヤマネコといわれており、猫は寒さよりも暑さが得意です。
とても暑い日、クーラーを効かせているのに直射日光の当たる窓辺などで猫がひなたぼっこしていることがあります。「体をなめてグルーミングをした後で日光に当たることにより、常在菌を減らしている」「日光浴が猫にとって一番リラックスできるから」など諸説ありますが、原因はよくわかっていません。
ひなたぼっこをしている猫を涼しい場所に移動させても、また元の位置に戻って日光に当たっていたりします。
体を触ると熱くなっていることもありますが、猫が自ら移動している場合は最適な温度を判断しているということなので、あまり気にしなくても大丈夫です。
ただし、シニアの猫の場合は感覚器官が鈍くなっていることもありますし、動くのが面倒でそこに居続けているだけ、ということもあります。シニアの猫が日なたにいて、体を触ったら熱い場合は、抱っこして涼しい場所に移動させてあげてください。

(5) いつでも新鮮な水を飲めるようにしておくことが大切です
熱中症の主な原因は、気温と湿度の高さ、脱水などです。猫が水分を摂れるように心がけましょう。
● ファウンテンタイプの水飲み容器を使う
● 蛇口から流れる水をそのまま飲ませる
● 鰹節などで取った出汁を薄めて飲ませる
● 猫用の液状おやつを水で薄めて飲ませる
● ペット用の栄養飲料を飲ませる
などがおすすめです。
もともと、猫はあまり水を飲まない動物で、常にギリギリの水分量で生きようとしていることが多いです。ここに、熱中症による体温の上昇が加わると、血液がドロドロになり腎臓への血液の供給量が減って老廃物を排泄できなくなったりすることで、急性腎不全などを起こすこともあります。水分を摂らせることを心がけてください。

猫が熱中症になると、どんな症状が出るのでしょう?

(1) 猫は体調不良をあまり見せたがらない動物です。
古来より群れで暮らしてきた犬は、体調不良を群れのほかの犬にアピールして集団で解決してきたため、現代においても体調不良を飼い主にアピールしてくれます。
ところが、野生の猫は群れをなさないことが多いため、体調不良が敵に悟られると捕食されてしまいます。野生の猫も、家で飼育されている猫も体調不良をとにかく隠そうとするのはそのためです。猫は体調が悪いと、隠れて自力で治そうとすることが多いです。

(2) いつもの場所にいない、吐く、下痢や軟便、脱水症状がみられるときはすぐに動物病院へ!
猫がお気に入りの場所にいない場合、体調が悪いことが多いです。また、お風呂場や洗面所、玄関、押し入れなどを見てみてください。猫は吐いた場所から逃げるので、そのあたりに吐いていることが多いです。下痢や軟便などの症状がみられ、首の後ろをひねっても皮がもとに戻らないときは脱水している可能性が高いです。すぐにかかりつけの動物病院に相談をしてください。

(3) 体温が高いからといって急激に体温を下げるのは禁物です。
猫の呼吸が早くてぐったりしており、なんとなく目がうつろで、触ると熱い場合は熱中症の可能性が高いです。その場合は、最初の処置が肝心です。
このとき、冷水をかけたりして急激に体温を下げてしまうと、深部体温が高いまま表面の体温だけが下がってしまい、毛細血管が締まってしまい、多臓器不全を起こすことがあります。
濡れたタオルで猫を包み、うちわをあおいで風をあてながら熱を蒸散させるのがベストです。その後、すぐにかかりつけの動物病院に連絡をしてください。

(4) 多頭飼いの場合はより注意が必要です。
若い猫とシニアの猫を多頭飼いしている場合で、猫にお留守番をさせるときはシニアの子だけを別の部屋で過ごさせるか、キャットタワーを入れた3段ケージなどに入れるのがおすすめです。若い猫が、飼い主様が見ていないところでシニアの猫をいじめる場合があるからです。
また、猫の居住環境を分けておけば、「誰が吐いたのか」がわかりやすいです。

これからも暑い日が続きそうです。猫の熱中症にはくれぐれも気を付けて、猫とのハッピーライフを楽しんでくださいね。

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