健康

【獣医師監修】夏の脱水症状に注意 犬と猫に水を飲ませるためにはどうすればいい?

「あれ、今日のオシッコちょっと色が濃くない?」 「こんなに暑いのに、水を飲まなくて大丈夫?」 犬や猫は暑くても、冷房が効いた室内にいると水をあまり飲まないことがあります。飲水量が減った結果、脱水症状を起こしたり、泌尿器系の疾患が発生してしまったりすることもあります。あまり水を飲まない犬や猫に水分をしっかり摂ってもらうためには、どのような工夫が必要でしょう? キャフェリエの小林充子院長に伺いました。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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犬も猫も、喉が渇く感覚が鈍いので脱水状態になりやすいです

(1)犬は体温を下げるために水を飲むことがあります
夏場の犬は「喉が渇いて水を飲む」だけはなく、「熱くなった体の体温を下げるために水を飲む」ことがあります。人間には皮膚に汗腺があるため、汗をかくことで体温調節をすることができます。しかし、犬は人間と違って汗を分泌するための汗腺(エクリン腺)が少なく、肉球や耳の中、鼻先といった部分にしかありません。そこで犬は、舌を出して口呼吸をする「パンディング」をすることで体温を下げます。
犬がお散歩の後に犬ががぶがぶ水を飲むのは、喉が渇いたということだけでなく、水を飲むことで体温を下げる目的もあると考えられています。
夏の冷房が効いた室内では体温があまり上がらず、犬は「冷房で乾燥して喉が渇く」という感覚が人間に比べると鈍く、水を飲む量が減っていきます。その結果、脱水状態になりやすいのです。
また、特に9歳以上のシニアドッグは喉の渇きを覚えにくく、水飲み場まで行くことをおっくうがることもあり、脱水状態に陥りやすいです。

(2)猫はそもそもあまり水を飲まない動物です
現在、ペットとして飼われている「イエネコ」の祖先は、砂漠に住んでいたリビアヤマネコだといわれています。水が乏しい砂漠で生きてきたため、今でも猫はあまり水を飲まないことが多いです。また、「流れている水が好き」など、水にこだわりがある猫もいます。暑さを感じれば水を飲むこともありますが、夏の室内は冷房が効いているので、喉の渇きを覚えることも少なく、飲水量が減って脱水状態になりやすいです。
シニアキャットが脱水状態に陥りやすいのは、犬と同じです。

(3)旅行で初めてのペットホテルや友達の家に預けることで脱水状態になることも
犬、特に猫は環境の変化に弱い動物です。環境が変わると緊張状態や興奮状態が持続するので、静かに過ごしていても水分の消費量が多くなります。また、緊張によって日中ずっと起きていることもあるうえに、慣れない環境で水を飲むことをおっくうがることも多く、自宅にいるより脱水しやすくなるのです。
犬や猫をペットホテルや友達の家に預けるときは、いつも使っているウォーターボウルや普段使っているベッドや毛布、お気に入りのオモチャも一緒に託すなど、リラックスさせる工夫が必要となります。

(4)脱水状態は健康の悪化を引き起こします
脱水状態が続くと、熱中症はもちろん、腎臓、膀胱など泌尿器系の疾患の原因になることもあります。また、脱水による乾燥で感染症を引き起こしたり発熱したりすることがあります。

(5)脱水状態か否かを見極めるには「首の皮テスト」がおすすめ
犬や猫が脱水状態かを見極めるには、背中側の首の皮をつまんで、時計回りに90°回してみてください。皮がすぐ元に戻るなら、脱水の心配はありません。元に戻るまでに5秒かかる場合、全身の5%程度脱水しているといわれています。すぐに水分を摂らせましょう。

犬の首の後ろの、皮が余っている部分をつまみます。写真がわかりやすいようにマズル(鼻先)をつかんでいますが、じゃれあって遊ぶようなかんじでさっとなでるようにつまむと犬が怖がりません。

首の付け根から皮を90°回し、すぐに皮が戻れば大丈夫です。

また、オシッコの状態も見てみましょう。色がいつもより濃い、ニオイがいつもより強い、いつもより自分のオシッコのニオイを長く嗅いでいる場合も要注意です。いずれの場合も、積極的に水分を摂らせましょう。

水分を摂らせる工夫①:ウェットフードに切り替える

ウェットフードは水分含有量が75%程度もあり、栄養とともに十分な水分を摂ることができます。飲水量が落ちている場合は、ウェットフードを上手に取り入れてみるのも一つの方法です。食いつきが悪いときは、電子レンジなどで人肌程度(35℃程度)に温めてからあげてみてください。香りがたつので、嗜好性が上がります。
また、いつものドライフードをお湯でふやかしてからあげるのもおすすめです。

水分を摂らせる工夫②:犬は氷、猫はぬるい水を活用する

(1)犬は氷が大好きな子が多い
犬は氷やウォーターサーバーの水など「キンキンに冷えている状態のもの」を好む子が多いです。水道水はぬるかったり、水道水特有のカルキ臭や貯水槽のニオイが気になったりして、夏はあまり飲まないという子もいます。
水に氷を入れたり、そのまま氷をかじらせたりすると喜ぶ子が多いです。食事もスープ状にして、製氷皿で凍らせたら喜んで食べたという子もいますし、凍らせたささみの茹で汁が大好きという子もいます。
人肌程度に温めたウェットフードに興味を示さなかったような場合は、ぜひ試してみてください。

冷やした軟水のミネラルウォーターを飲ませるのもいいでしょう。硬水はミネラルのバランスを崩すことがあるので避けてください。
また、患者さんで、「ウォーターサーバーから出した水しか飲まない」というワンちゃんがいました(笑)。軟水なら問題ありませんが、恐らく、「人と同じものを飲みたい」という願望に由来する行動だと考えられます。「ウォーターサーバーから注ぐふりをして、冷やした水道水をあげてみてください」とアドバイスしたところ、冷やした水道水を飲んだとのことでした(笑)。
また、ブドウなどの「犬が食べてはいけない食物」はNGですが、キュウリや種と皮を除いたスイカ、トマトなど、夏が旬の野菜や果物は水分含有量が多いので、水分補給にはもってこいです。

食べやすい大きさに切ってもいいですし、そのまま丸かじりするのが好きな子もいます。

キュウリ、スイカ、トマトはアレルギーが比較的少ない食材ですが、初めてあげるときは口唇のまわりにブツブツができる、体をかゆがるなどアレルギー反応が出ないかを観察してあげてください。

(2)猫はぬるい水を好む子が多い
犬とは反対に、猫は冷たい水に驚いてしまう子が多いです。猫には、ぬるめの水をあげてみてください。また、流れる水が好きという子には、ウォーターファウンテンタイプの水飲み皿を試してみるのもいいでしょう。
患者さんには、「かつお節で取っただしが大好き」という子が多いです。猫はグルメなので、おいしいだしを知っているのですね(笑)。取っただしをそのままあげると塩分過多になってしまうので、半分くらいに薄めてからあげてみてください。薄めても、猫にはちゃんと香りと旨味がわかります。

水分を摂らせる工夫③:ペット用スポーツドリンクのような栄養補助食品を活用する

ホームセンターやペットショップなどで、ペット用スポーツドリンクのような栄養補助食品が販売されています。こういった製品を活用し、水分を積極的に摂らせるといいでしょう。
冷たくすると甘みをあまり感じなくなるので、ペット用スポーツドリンクに関しては冷やさず、常温のままのほうがよく飲みます。

暑い日は夜でも犬のお散歩を短めにしたほうがいい場合もあります

昨今の暑さは、異常です。35℃を超えたような日は、日が沈んでもコンクリートが熱いままのこともあります。先日、夜9時にお散歩をしたダックスフンドが軽度の熱中症となり、治療をいたしました。幸い、大事には至りませんでしたが、短頭犬種や脚が短いダックスフンドなどの暑さに弱い犬種は、夜でもお散歩を控えるか、短い時間にとどめたほうがいいように思います。
まだまだ厳しい暑さが続きますが、飼い主様もワンちゃん、猫ちゃんも、お体にお気を付けてお過ごしください。

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