年齢を問わず多くの猫がかかる 健康

【獣医師監修】猫下部尿路疾患の予防法とは?

猫の下部尿路(膀胱、尿道)に起こる病気全般を総称して猫下部尿路疾患(FLUTD:Feline Lower Urinary Tract Disease)と呼び、年齢を問わず多くの猫がかかります。その症状や原因、予防法について、キャフェリエの小林充子先生に伺いました。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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多くの下部尿路疾患の症状である「頻尿」は1日5回が目安です

猫の下部尿路疾患は、尿路結石、膀胱炎、尿道炎、尿路感染症、膀胱〜尿道の腫瘍など様々な症状を引き起こす疾患の総称です。そのうちおよそ60%は原因が特定できない特発性膀胱炎であり、残りのほとんどは結晶(結石)による膀胱炎です。不適切な場所での排尿、痛みを伴う排尿、頻尿、血尿、おしっこが出ない、など下部尿路疾患の症状は、排尿時に現れることが多いです。もともと、猫は飲水量が少なく排尿回数も少ないので、多くの猫のオシッコの回数は1日2~3回です。4回だとグレーゾーン、5回以上だと確実に頻尿だといえます。猫の様子を見て、
・ いつもよりトイレに頻繁に行く(頻尿)
・ オシッコのポーズをするがオシッコが出ていない(排尿困難)
・ オシッコに血が混ざっている(血尿)
・ いつもと違う場所にオシッコをしてしまう(トイレまでオシッコを我慢できない)
・ オシッコするときに痛そうにしている(排尿痛)
という症状があったら、すぐにかかりつけの獣医師に相談をしてください。
また、オシッコが出ないと尿毒症になり、命に関わる大変危険な状態になります。この場合も、すぐにかかりつけの獣医師に相談をしてください。

下部尿路疾患の予防として「水分を摂らせる」ことが重要です

現在、家庭で飼われている猫(イエネコ)の祖先は砂漠で暮らしていたリビアヤマネコなので、そもそもあまり水を飲まないといわれています。
それに加えて、
・ 猫がストレスを感じている
・ 季節が冬
などの原因があると、猫はますます水を飲まなくなる結果、下部尿路疾患が起こりやすくなります。
猫に水分を摂らせたい場合、水に甘味を加えることはあまり意味がありません。
なぜなら、猫には甘味を感じる味蕾(舌で味を感じる器官)がなく、「甘い」という感覚がわからないので、甘い水は彼らにとって特別な水ではないからです。
猫には塩味を感じる味蕾があり、塩味を好みます。
猫に水分を摂らせたい場合は、
・ 猫用のペースト状のおやつをぬるま湯で薄める
・ 猫用の栄養補助飲料を与える
・ かつおぶしなどで取った出汁を薄める
・ 鶏のささみのゆで汁を冷まして与える
ことなどがオススメです。
また、家に水飲み場を複数設けたり、ウォーターファウンテンタイプの水飲み器を用意したり、水を入れる容器の材質を変えるなどすると、水をよく飲むようになる場合もあります。

特発性膀胱炎とは原因が特定できない膀胱炎です

(1)症状
特発性膀胱炎とは、頻尿や血尿など膀胱炎の症状がみられるのに、原因が特定できない場合をいいます。尿検査をしても、細菌感染や尿石、結晶、異常な細胞などの原因は見つかりません。
(2)原因と予防
特発性膀胱炎を発症する引き金になるのは主にストレスだと言われており、ストレスの要因は猫によって違います。
・ ペットホテルや動物病院などに預けられたとき
・ 新しい猫を迎えたとき
・ 家に来客があったとき。特に猫は子どもが苦手(人見知りな猫の場合)
・ 引っ越しをしたり、部屋の模様替えをしたりしたとき
・ トイレの位置やトイレそのもの、トイレの砂が変わったとき
・ 近所で工事などが行われていて音がうるさいとき
など、いろいろなことがストレスの原因になります。猫が環境の変化に敏感な性格の場合は、生活環境をなるべく変えず、猫がストレスを感じないように過ごさせてあげることが重要です。
また、「猫は家につく」というように家に対して縄張りを持ちます。ですから、猫は家から出さないことが一番のストレスの予防となります。
特に家好きな猫の場合は、旅行のときなども預けるより、ペットシッターさんなどに家に通ってもらうほうがいい場合もあります。
猫の性格を把握することが、予防にとって重要だといえるでしょう。
もちろん、水を飲ませることも大切です。

結晶による膀胱炎には大きく分けて2種類あります

(1)シュウ酸カルシウムは少しやっかいです
猫によくみられる結晶には
・ ストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)結晶
・ シュウ酸カルシウム(シュウ酸塩とカルシウム)結晶
があります。
ストラバイトは長方形を基本とした四角柱で、大きさはやや大きいものの薬で溶かせます。シュウ酸カルシウムは正方形を基本とした四角柱で、大きさはやや小さいものの、一度できてしまうと薬で溶かせないので少しやっかいです。
ストラバイトはアルカリ尿でできやすい性質があるので、尿のPH値が7~8を示すことが多く、逆にシュウ酸カルシウムは酸性尿の時にできやすいので、尿のPH値は5.5~6程度です。
尿検査を行い、尿のpH値、尿比重、尿たんぱく、感染の有無を見た後、顕微鏡で結晶がないかどうかを確認します。その結果、結晶の析出が見られたら、その種類を特定し、それに合った投薬やサプリを与えたり、フードを処方食に変更したりすることで治療します。
いずれにしても、早期発見が重要ですので、オシッコに異常がみられたらすぐにかかりつけの獣医師に相談してください。
(2)結晶は長毛種のオスにできやすいです
アメリカンショートヘア、ペルシャ、スコティッシュフォールド、アビシニアンなどの純血種は、結晶ができやすい猫種です。またいわゆる雑種、日本猫といった猫にもよく見られます。
さらに、オスとメスなら、オスのほうが結晶はできやすいです。また結晶がメスよりも狭い尿道を通る時に内壁を傷つけることにより、血尿などが起こりやすくなります。
(3)去勢不妊手術の直後に結晶による膀胱炎がみられることが多いです
結晶による膀胱炎は、結晶ができやすい体質かそうでないかによって左右されます。
去勢不妊手術前に結晶を作る猫は稀です。
しかし、去勢不妊手術を施すと性ホルモンが出なくなるため体質が変化し、結晶を作りやすい体質に変わることがあります。そういった体質の子は、早いと手術の1ヶ月後などに症状があらわれることがあります。好発猫種でオスの場合は、定期的に尿検査を受けた方がいいかもしれません。結晶を作る、作らないはその体質によるため、フードを変更したりサプリメントを使うなどのケアが、基本的には一生必要になります。ですから、結晶による膀胱炎が治癒した後も定期的に尿検査、診察に通う必要があります。
不妊去勢手術後、約1年以内に結晶による膀胱炎ができなかった場合は、結晶による膀胱炎になりにくい体質であることが多いです。
愛猫のオシッコをこまめにチェックして、早期に膀胱炎を発見してあげてください。

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