ニオイと色で異変をキャッチ! 健康

【獣医師監修】犬と猫の耳垢からわかる病気

最近なんだか犬や猫の耳が匂う……というときは、耳の中を見てください。そこに付いている耳垢の色から、異変がある程度わかります。今回は、犬と猫の耳垢からわかる病気について、小林充子獣医師にうかがいました。かかりつけの動物病院に相談する際の目安にしてください。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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犬、猫の耳の中はどうやって見ればいい?

(1) 犬や猫がいやがらない体勢を取らせて見るのが基本です

耳が立っている犬や猫の場合は耳の中を見やすいですが、耳が寝ていたり、垂れていたりする犬や猫の場合、耳に問題を起こしたことがあることが多いため、耳を触られるといやがる子が意外と多いものです。いやがらない犬や猫の場合は、体を撫でたり褒めたりしながらさっと耳をめくって中を見てください。
このとき、ペンライトなどで中を照らすと、より見やすいです。

(2) 耳毛を抜くのは獣医師かトリマーさんにお任せするのが無難です
外耳炎を起こしかけている犬や猫の場合、耳道内の毛を不用意に抜くと刺激や炎症の原因となることもありますので、耳道内の毛は獣医師か、トリマーさんに抜いてもらうようにするといいでしょう。場合によっては抜かずに短く切る方がいいかもしれませんので、どちらがいいかは獣医師に相談しましょう。

犬は外耳炎がもっとも多い耳の疾患です

(1) 外耳炎とは
犬の耳の穴から鼓膜までの間の「外耳道(がいじどう)」という部分に炎症が起こるのが外耳炎です。

(2) 外耳炎の原因
アトピーやアレルギーなどの基礎疾患がある子は、湿疹などが耳道にできてかいているうちに傷口から細菌などが入り、外耳炎を起こすことがあります。また、後ほど詳しく説明しますが、マラセチアという常在菌が免疫の低下により繁殖することなどからも発生します。

(3) 耳を気にしてかいているようなら動物病院に相談を
後ろ足で耳をかく、頭を振る、ベッドやタオルなどに耳をこすりつける、耳が臭いなどの症状があったら、耳の中を見てください。細菌性外耳炎の場合、耳垢の色は白、クリームだったり、緑がかったりしています。また、耳垢はどろっとした液状のことが多いですが、固まっていたりすることもあります。マラセチア性外耳炎の場合は、赤茶または黒です。混合感染の場合は、茶色っぽい色になることもあります。
そして、独特の酸っぱいようなにおいが強いです。

(4) かかりやすい犬種、猫種
ゴールデン・レトリーバー、アメリカン・コッカー・スパニエル、シー・ズー、プードル、マルチーズなど耳が寝ていて毛が多い子がかかりやすいです。
猫の場合は、アメリカン・カールやスコティッシュ・フォールドなど、折れ耳の子に注意が必要です。耳が折れているところに皮脂がたまり、外耳炎を起こしやすいです。

写真はスコティッシュ・フォールドです。猫は犬に比べると耳の疾患は少ないですが、折れ耳の子は注意が必要です。

(5) 外耳炎は慢性化することが多いです
犬も猫も、外耳炎になる子は慢性化することが多いです。定期的にトリミングに出す犬種は、トリマーさんが見つけてくれることも多いので、トリマーさんに外耳炎になりやすい子だと告げておくとよいでしょう。(3)のような症状が見られるなら、すぐにかかりつけの動物病院に相談をしてください。

猫はグルーミングのときに注意して見てください

(1) 猫はかゆみが犬よりも強いことがあります
猫は犬に比べて外耳炎はあまり多く見られるわけではありません。特に多頭飼いの場合の猫はグルーミングし合うので、耳の中もほかの猫がキレイになめているため耳は総じて綺麗なことが多いです。単頭飼いの場合でも、猫は自分で顔を洗うようにグルーミングをしますが、このとき耳の後ろを血が出るまでかいているようなら外耳炎などにかかっている可能性があるので、かかりつけの獣医師に相談をしてください。

(2) 猫は近年、「増殖性壊死性外耳炎」という疾患が注目されています
猫は耳が立っている猫種が多いので、犬ほど外耳炎は多くありませんが、「増殖性壊死性外耳炎」という疾患がまれにあります。特徴としては若い猫に発症することが多いこと、ペルシャ系の猫に多く見られること、年齢とともに治まっていくことが多いこと、などが挙げられます。この疾患の原因はよくわかっていませんが、免疫細胞が関わっている可能性が高いと考えられており、治療には免疫抑制剤の軟膏を用います。慢性的に外耳炎を繰り返している比較的若齢、かつ毛足の長い猫ちゃんで、耳の中に「かさぶた」がびっしり詰まっているような場合は、この病気の可能性もありますので、かかりつけの獣医師とよく相談をしてください。

中耳炎にも注意が必要です

(1) 中耳炎とは
外耳炎が進行し、鼓膜とその奥の空間(鼓室)まで炎症が広がると、中耳炎という診断になります。

(2) 中耳炎の原因
外耳炎を治療しなかったり、治療が不十分だったりすると中耳炎になることが多いです。外耳炎との鑑別は、かかりつけの獣医師に委ねてください。外耳炎は塗り薬や点耳薬などの外用薬で治ることが多いですが、中耳炎まで進行すると場合によっては抗生剤を6週間程度内服することが必要となりますので、中耳炎まで進行させないように気を付けることが肝心です。
まれに、外耳はきれいなのに、しきりに頭を振っていたり耳道を触ると痛がったりする子がいます。レントゲンやCTなどを撮ると、中耳内にポリープや腫瘍があることがわかり、そこから波及した中耳炎と診断されることがあります。また内部からなんらかの経路で細菌感染して中耳炎を起こすこともありますが、このような場合も頭を振ったり、耳をしきりにかいたりする症状が出ますので、早めにかかりつけの獣医師に相談をしてください。

(3) かかりやすい犬種、猫種
外耳炎と同じく、耳が寝ていたり、折れていたりする犬種や猫種がかかりやすいです。

(4) アメリカン・コッカー・スパニエルは中耳炎に進行してしまう子が多いです
ゴールデン・レトリーバーは耳道が広くて大きいので外耳炎で済むことが多いですが、アメリカン・コッカー・スパニエルは耳が大きくて重いうえに、耳介が厚くて重く、また耳の上にかぶさる毛を伸ばすことが多いので、外耳炎になると治りにくいことがあります。
耳の上にかぶさる毛をゴムでとめるなどして、なるべく耳の通気性をよくするようにしましょう。

写真はアメリカン・コッカー・スパニエルです。耳が大きくて重く、耳にかぶさる毛を伸ばすことが多いので、外耳炎、中耳炎になりやすいです。

外に出す猫は耳疥癬に注意が必要です

(1) 耳疥癬とは
耳道にミミヒゼンダニ(耳ダニ)が寄生することで起こる耳の疾患です。ミミヒゼンダニは屋外にいますので、保護猫や、外に出す習慣がある猫が感染することが多いです。犬ももちろん耳疥癬になりますが、犬の場合はスポット型のノミ・ダニ予防薬を定期的に塗布している飼い主様が多く、多くのノミ・ダニ予防薬はミミヒゼンダニも予防・駆虫するため、猫ほど多くはありません。

(2) 黒褐色の耳垢の場合は要注意
激しいかゆみが起こるため、耳をひっかいたり、こすりつけたりします。耳の中を見て、黒褐色の乾いた耳垢が大量に出ている場合は、すぐにかかりつけの獣医師に相談をしてください。

(3) 耳疥癬はすさまじい感染力です
ミミヒゼンダニが寄生した犬や猫が頭をふると、半径2m以内にミミヒゼンダニが飛び散るといわれています。犬も猫もうつるので、多頭飼いをしている中の1匹が感染した場合は、ほかの犬や猫も動物病院で診てもらうのがよいでしょう。
また、ミミヒゼンダニは草むらなどにいますので、犬の場合は必ず定期的にスポット型のノミ・ダニ予防薬

黒い耳垢から酸っぱいニオイがするときはマラセチアを疑って

(1) マラセチア性皮膚炎、マラセチア性外耳炎とは
マラセチアは、健康な犬や猫の皮膚や外耳などに常在している酵母様真菌です。健康なときは問題ありませんが、季節の変わり目や梅雨どき、台風が連続して発生しているなど湿度が高いとき、なんらかの基礎疾患で体の抵抗力が落ちているときなどに異常に増殖して皮膚炎や外耳炎などを起こします。

(2) しきりにかゆがる耳の耳垢が黒いときはすぐ動物病院へ
耳をひっかいたり、ベッドやタオルなどに耳をこすりつけたりという症状が出ていて、茶褐色、もしくは黒っぽい色の耳垢が出ているときは、すぐにかかりつけの獣医師に相談をしてください。

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