予防接種と一緒に健康チェック 健康

【獣医師監修】犬と猫の健康診断

春は狂犬病予防接種やワクチン接種とともに、健康診断の季節です。犬や猫の健康診断は、何歳から行うべきでしょう? また、加齢とともに診断項目は増えるのでしょうか。今回は、犬や猫の健康診断について、キャフェリエの小林充子獣医師に伺いました。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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若い犬や猫でも1年に1回の血液検査が基本です

コロナ禍で接種のタイミングがずれてはいますが、基本的には犬の場合、4月に狂犬病予防接種と、血液検査をしてフィラリアの有無を調べたうえでフィラリア予防薬を処方されると思います。また、猫も4月にフィラリアの血液検査とワクチンを受けるでしょう。
血液検査については、この記事で詳しくまとめておりますので、ぜひご参照ください。
例えば血液検査の結果、腎臓が心配ということになれば、3カ月に1回の割合で検診するなど今後の診療方針が立てやすくなります。フィラリアの有無を調べる血液検査の際、少し多めに採血してもらって、様々な血液検査を行うようにするといいでしょう。

犬・猫ともに尿検査からも様々な疾患を発見できます

尿検査によって腎臓の疾患や糖尿、尿崩症(濃縮されない薄い尿が大量に出る病気)などの疾患を早期に発見できます。また、尿中ビリルビンの数値を見ることで、肝臓に疾患があるかがわかります。
ダルメシアンやシー・ズー、ミニチュア・シュナウザーなどはストラバイトやシュウ酸カルシウムなどの尿石ができやすい犬種なので、避妊去勢手術をした後、フードを変更した後などのタイミングで尿検査をしておくとよいでしょう。猫下部尿路疾患の記事でもまとめましたが、アメリカンショートヘア、ペルシャ、スコティッシュフォールド、アビシニアンなどの純血種、雑種、日本猫は結晶ができやすい猫種ですので、尿検査をしておくことをおすすめします。1日の排尿回数が5回を超えたときや、フードを変更した後などは特に検査されるといいと思います。
また、見た目普通の尿の色をしていても潜血が出ている場合もあります。潜血反応が出る場合、その原因は膀胱炎だけでなく、膀胱や尿道などに腫瘍ができている可能性もあり、それらを早期発見する手助けにもなります。

エコー(画像診断)検査は臓器が正常かを確認できます

血液検査は採血の際、針を犬や猫に刺さなくてはいけませんが、エコー検査は犬や猫にそういった恐怖心を抱かせることがありません。また、エコーで映された臓器を飼い主様と獣医師がともに確認してコミュニケーションを取りながら臓器が正常かを確認できるという利点があります。
エコー検査では胸部から腹部、つまり心臓、消化管、肝臓、胆嚢、左右の腎臓、脾臓、膀胱などを見ていきますが、「何も問題がない子」は意外といません。例えば脾臓が大きくなりはじめていたり、腎臓に結石があったり、肝臓の表面が空砲化していたりといろいろです。胆嚢に胆泥や胆石ができていることもあります。ある程度の年齢になったら、血液検査、尿検査、エコーまで受けておくと病気の早期発見につながり、安心です。

犬の場合はレントゲン(画像診断)も必要になる場合があります

レントゲン検査では、骨や関節の異常、各臓器の大きさや腫瘍の有無など、形態的な異常をチェックすることができます。ミニチュアダックスフント、ペキニーズ、トイ・プードル、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウェルシュ・コーギー、シー・ズー、柴犬、ジャーマンシェパード、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリバーなどは、椎間板ヘルニアや変形性関節炎、変形性脊椎症の好発犬種です。これらの犬種の場合は、かかりつけの獣医師と相談し、定期的にレントゲンも撮っておいたほうがいいでしょう。また僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種は8歳くらいになったら定期的に胸部のレントゲンを撮っておくといいと思います。定期的に撮っておくことで、心臓の拡大傾向を早期に発見することができます。

心臓が弱い犬種・猫種は心電図も定期的に撮ったほうがいいでしょう

・1.犬の場合は僧帽弁閉鎖不全症に注意が必要です
心臓の左心房と左心室の間には、血液を送り出すために開いたり閉じたりする機能を持つ僧帽弁があります。この僧帽弁が、なんらかの原因で変性し、うまく閉じない閉鎖不全が生じるために起こる病気が僧帽弁閉鎖不全症です。
・2.キャバリアなどが僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種です
僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種は、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、マルチーズ、シー・ズー、チワワ、ポメラニアン、ペキニーズ、パピヨンなどです。
・3.血液検査とエコー検査、心電図検査で把握できます
心臓にストレスがかかると、血液中にNT-proBNPやANPが放出されます。これは血液検査で数値が出ますので、心臓にどれくらい負担がかかっているかがわかります。
心電図を撮ると、不整脈や心筋症の徴候がわかります。またエコー検査では、右と左の弁の動きがわかり、血液の流れを把握できます。また、僧帽弁の逆流があるかもわかります。
血液検査とエコー検査、心電図検査と合わせることで、愛犬の心臓の状態がわかりますので、年に1度は受けることをおすすめします。
・4.猫の場合は肥大型心筋症に注意が必要です
肥大型心筋症とは、心臓の左心室の心筋が進行性に肥厚していく病気です。アメリカンショートヘア、ラグドール、メインクーン、ブリティッシュショートヘア、スコティッシュフォールド、ペルシャ、ヒマラヤン、ノルウェージャンフォレストキャットなどが好発猫種です。これらの猫種の場合は、1歳前に遺伝子検査をして肥大型心筋症の素因があるかを調べ、素因がある場合は定期的にエコー検査と心電図検査を受けることをおすすめします。またNT-proBNPを検査することで、現状心筋にどれくらの負担がかかっているか見ておくといいと思います。
・5.15歳以上の子は心電図検査を受けるのがおすすめです
犬種、猫種を問わず、15歳を越えると心臓になんらかの疾患を抱える子が多くなるので、かかりつけの獣医師と相談をしながら定期的な心電図検査を受けるのがよいでしょう。

子犬と子猫は検便が重要です

子犬や子猫の場合、サルモネラやカンピロバクター、コロナウイルス、消化管寄生虫などを確認するため、検便がとても重要です。健康診断の際には、必ず便検査もするようにしましょう。

「ミックスが丈夫」とは限りません

よく、ミックスは丈夫だといわれますが、例えばマルチーズ×プードルの「マルプー」など純血種同士のミックスは、どちらの血が強く出ているかで想定される健康状態が変わってきます。マルチーズの血が強ければ僧帽弁閉鎖不全症などにかかる可能性が高くなりますので、年に1回は健康診断を受けることをおすすめします。

「動物病院が苦手な子」は病院に行く前に電話で相談するのがベターです

この時期、SNSなどで「動物病院に行くことを察して泣きまくるワンちゃんや猫ちゃん」の動画をよく見ます。すごくかわいいですよね(笑)。私も大好きです。
猫も犬も、基本的に
・家族以外をあまり信用していなくて、触られるのが苦手な性格の子
・家の外に出るのが苦手な子
・警戒心が強い子
・ほかの犬や猫と待合室などの同じ場所にいたくない子
は、動物病院が苦手です。ただ、こういった子たちは動物病院に入るときと診察前は大騒ぎしますが、なぜか採血や注射の瞬間は意外と泣き止んで真顔になり、おとなしくしてくれます。
また、おうちの人と獣医師が話しながら診察すると大丈夫な子、おうちの人がいると甘えてしまってさらに大騒ぎする子と性格は様々です。獣医師としての対処法も、その子によって変わってきます。
かかりつけなら、獣医師は犬や猫の性格をだいたい把握しています。健康診断を受けるときは動物病院に電話をして、獣医師とどのようにすればいいかを相談してください。

1年に1回の健康診断で、愛犬・愛猫とより安心できるペットライフを送ることができますようお祈りしています。

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