ワクチンで予防できるのは致死率が高い病気ばかり 健康

【獣医師監修】愛犬ワクチン大全 定期的な予防接種で愛犬を守りましょう!

例年※4月はワンちゃんの健康診断&予防接種の季節。でも、「日本は狂犬病清浄国だから、打たなくてもよくない?」「うちの子は昔ワクチンを打ったから、もう打たなくていいわ」って考えてしまうこと、ありませんか? ワクチンで予防できるのは、かかると死亡率が高い伝染性の病気ばかり。かかりつけの動物病院に相談をしたうえで、かならずワクチンで予防しましょう。今回は、ワクチンのしくみや、ワクチンで予防できる主な病気について、獣医師の小林充子先生に伺いました。

※例年、保健所などが行う狂犬病の集団予防接種は4月に行われる地域が多いですが、コロナウイルス流行の影響で6月などに延期している自治体も多いです。実施日などにつきましては、各保健所の公式ホームページで確認をしてください。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

Index

そもそも、ワクチンはどんなしくみで病気を予防するのでしょう?

①ワクチンのしくみ
動物病院で犬に接種するワクチンは、病原体を無毒化または弱毒化したものを体に接種して、感染症に対する免疫力をつけることが目的です。犬のワクチンには、すべての犬に接種すべきコアワクチンと、感染のリスクに応じて接種するノンコアワクチンの2種類があります。

②ペット保険やペットホテルを利用する際などには接種証明書が必要です
病気に対する抵抗力は、獣医的に予防効果が確立されたワクチンと健康的な生活、食生活で身に付けていくべきでしょう。
また、ペット保険によって異なるので約款の確認が必要ですが、ワクチンで予防できる病気にワクチンを接種せずに罹患しても、補償の対象外となってしまうことが多いです。
愛犬をペットホテルなどに預けるときも、狂犬病予防接種とワクチン接種証明書が必要となることがあります。

③あまり外に出ない犬でも人がウイルスを媒介する可能性があります
「うちの子はあまり外に出さないから」という愛犬でも、コアワクチンが対象とする病気は空気感染する場合があります。また、飼い主様などご家族が病気を媒介してしまうケースもあります。
たとえば、犬のパルボウイルスはアルコールや石けんなどでも死滅せず、消毒できる薬剤が次亜塩素酸ナトリウムなどに限られます。また、自然環境下でも数カ月以上生存できるとされており、汚染された地面などを踏んだ靴に付着し、家庭内に入り込む可能性があります。
かかりつけの動物病院で相談しながら、定期的に予防接種をしましょう。

狂犬病予防接種の年1回の接種は、法律により定められた義務です

①狂犬病は感染動物から噛まれるなどして発症すると、ほぼ100%死亡します
狂犬病の主な病原体は狂犬病ウイルスで、ウイルスを保有する犬、猫をはじめコウモリなどの野生動物から咬まれたり、ひっかかれたりしてできた傷口からウイルスが侵入することで感染します。
狂犬病は人や犬、猫だけではなく、すべての哺乳類に感染します。
犬などの動物が感染して発症すると極度に興奮して攻撃的な行動を示します。また、光や音、水などの刺激に異常な反応を示す狂騒期と言われる期間が2〜4日程度続き、麻痺が広がって食物や水が飲み込めなくなり、昏睡状態に陥る麻痺期が2日程度続いた後、死亡します。発症してから死亡するまでは長くて6日程度です。
人が感染して発症すると、強い不安感、錯乱、高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんなど様々な症状がみられます。発症した場合、動物はもちろん、人もほぼ100%死亡する恐ろしい感染症です。

②狂犬病は恐ろしい病気なので予防接種が法律で定められています
かつては日本でも狂犬病により多くの人が亡くなったため、狂犬病予防法により、犬の飼い主には以下のことが定められています。
・住んでいる市町村に犬を登録すること
・犬に毎年狂犬病の予防注射を受けさせること
・犬に鑑札と注射済票を付けること

③日本は数少ない狂犬病清浄国ですが油断はできません
日本国内において、※人の狂犬病は1956年(昭和31年)を最後に発生がありません。また、動物では1957年(昭和32年)の猫での発生を最後に2020年3月現在、発生がありません。
狂犬病清浄国は、日本、ハワイ、イギリス及びアイルランドの一部、オーストラリア、ニュージーランド、スカンジナビア半島の一部、アイスランドなどのごく限られた国のみです。とはいえ、安心はできません。アジアではほとんどの地域で狂犬病が発生していますし、ロシアでも発生しています。日本の動物検疫態勢は強固とはいえ、いつ、その網をくぐって狂犬病に汚染された動物が日本国内に入ってこないとも限りません。狂犬病ウイルスは空を飛ぶコウモリなども媒介します。必ず、狂犬病予防接種を打つようにしましょう。
※輸入感染事例としては、狂犬病流行国で犬に咬まれ帰国後に発症した事例が2例あります。

コアワクチンの対象となる犬の病気とは?

コアワクチンは、致死率が高く、伝染性が高い病気を予防します。コアワクチンの対象となる病気は、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎と狂犬病です。
犬のワクチンは主に仔犬に接種する2種ワクチンがあります。この2種ワクチンは、
①ジステンパーウイルス感染症
②パルボウイルス感染症
を予防できます。

2種ワクチンの次は5種ワクチンとなり、犬の5種混合ワクチンでは、これに加えて
②アデノウイルスⅠ型感染症(犬伝染性肝炎)
③アデノウイルスⅡ型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)
④パラインフルエンザ感染症
が予防できます。
上記の5つのうち、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎は感染すると死亡率が高く、これらを全て網羅している5種ワクチンが、コアワクチンとしては基本となります。
ここでは、死亡率が高い犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎がどのような病気か見ていきましょう。

①犬ジステンパー
(1)症状
ジステンパーには、子犬を中心に見られる急性症と、いったん熱が下がった後にみられる亜急性、さらに成犬にみられる慢性疾患があります。感染してから発症するまでの潜伏期間は数日〜数ヶ月まで様々で、臨床症状も無症状〜重篤なものまで様々です。通常、発熱(二峰性:高熱のち平熱、再度高熱)、鼻水やくしゃみ、結膜炎、食欲減退、体重減少、嘔吐、下痢が見られます。
ジステンパーの大きな特徴である発熱は、一度高熱となった後その後平熱に戻るので気付かないこともあります。その後約10日で2回目の発熱が表れ、鼻水や咳、結膜炎、下痢、嘔吐、脱水などが見られます。さらにけいれんや震え、後ろ足の麻痺などの神経症状を示すことがあり、その場合は死亡することが多いです。
急性症から回復した後でも脳の中にウイルスが潜み、何ヶ月も経ってから突然神経症状が出る場合もあり、これが亜急性の発症と呼ばれます。 ジステンパーの病態は非常に様々で、仔犬のみがかかる病気ではありません。仔犬はかかりやすく死亡率も高いですが、免疫がない老犬もかかりやすいと言えます。
「老犬脳炎」と呼ばれる形で発症する脳脊髄炎は、文字通り老犬がかかるジステンパーの症状です。ワクチン接種犬でもかかることがあります。目が見えなくなったり、頭を壁に押し当てたり、飼い主を認識できないようになったり、いわゆる痴呆の症状によく似ています。

(2)感染経路
ジステンパーウイルスに感染した犬のくしゃみや咳による飛沫感染、もしくは尿、便、血液、唾液と直接接触することによって感染します。また、感染した犬と水やフードのボウルを共有することでも、うつる可能性があります。ジステンパーウイルスに感染した犬に触った飼い主さんが媒介してしまうことも十分考えられます。

②犬のパルボウイルス感染症
(1)症状
犬がパルボウイルスに感染すると潜伏期は4〜7日程度ですが、早い場合は2日ほどで、元気・食欲がなくなり、熱が出てきます。その後、急に食欲、元気がなくなり、嘔吐や、出血を伴う激しい大量の下痢をします。重症化すると、数日間で死んでしまうことも珍しくありません。特に子犬は、75%~90%の致死率とかなり高いです。

(2)感染経路
犬パルボウイルスに感染した犬の嘔吐物や、下痢便から感染します。嘔吐物や下痢便に直接触らなくても、感染した犬が使ったおもちゃやタオル、毛布などから感染することもあります。
ウイルスの感染力が非常に強く、自然界では室温で何ヶ月も感染力を持ったまま存在できるともいわれます。たとえば、犬パルボウイルスに感染した犬が通った道を人が通り、靴の底などにウイルスが付着して愛犬にうつしてしまうことがあります。また、感染した犬に人が触り、その手がウイルスを媒介することもあります。

(3)犬パルポウイルスの恐ろしさは「なかなか死滅しない」ことです
感染した犬に接触して犬パルボウイルスが人の手などに付着した場合、石けんで洗ったり、通常の消毒薬で消毒したりするくらいでは死滅しません。
犬パルボウイルス専用の殺菌剤か、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)などを使わないと殺菌できないという、非常に恐ろしいウイルスです

③犬伝染性肝炎
(1)症状
アデノウイルスI型に感染して4~7日程度経過後に発症します。症状が急激に進んで突然死するものから、症状が現われない不顕性感染まで、病気の形はさまざまです。高熱を出して1日以内に急死する「突発性致死型」、肝炎の重症化に伴い、発熱や食欲不振、嘔吐、肝臓の腫大、黄疸などの症状を呈して死に至る「重症致死型」、発熱、角膜炎、鼻水などの軽い症状が2~10日間続いたのちに治癒する「軽症型」、症状がみられない「不顕性感染型」があります。発熱、下痢、嘔吐などの症状を伴う激しい症状の場合、パルボウイルス感染症と判別することが難しく、パルボチェック(パルボウイルスの簡易検査キット)の結果陰性であった時にこちらを疑われることもあります。無事に回復しても慢性の肝臓疾患を患う可能性がある非常に恐ろしい病気です。

(2)感染経路
アデノウイルスI型に感染した犬の尿や唾液などの分泌物が、ほかの犬の口の中に入ることによって感染します。

ノンコアワクチンで予防できる「レプスピトラ」はどんな病気?

①ノンコアワクチンは6~11種がある
ノンコアワクチンには、パラインフルエンザウイルス感染症、コロナウイルス感染症、レプトスピラ感染症があります。レプトスピラ感染症には様々な型があり、予防するレプトスピラの型に応じて、7種〜10種の混合ワクチンがあります。
これらは、月齢や住んでいる地域、飼育環境によって、かかりつけの動物病院で相談しながら接種するのが望ましいでしょう。

②レプスピトラはどんな病気?
(1)レプスピトラは細菌で、さまざまな型があります
レプスピトラには様々な型がありますが、家畜伝染病予防法によって届け出が義務付けられているのは、ポモナ型、カニコーラ型、オータムナリス型、オーストラリス型、イクテロヘモリジア型、グリッポチフォーサ型の7種類です。これらはすべて細菌で、「株」が異なります。

(2)人にも感染します
犬のレプトスピラ症は、犬などの動物だけではなく、人へも感染する人と動物の共通感染症です。ゆえに、予防が重要になります。

(3)感染した犬の症状
感染したレプスピトラの型により、症状はさまざまです。多くの場合黄疸が見られ、食欲減退、元気がなくなる、40℃近い高熱、嘔吐などの症状がみられます。
発熱、元気がないなど軽い症状のみで回復してしまう場合もありますが、肝不全や腎不全を起こし、感染後の早い時期に死んでしまう場合もあります。

(4)感染した人の症状
人での症状で最も多いのはインフルエンザに似た発熱や筋肉痛などの症状ですが、黄疸や腎不全になってしまう場合まで様々な症状が見られます。

(5)感染経路
最も多いのが、ネズミなどの野生動物からの感染です。レプスピトラはネズミなどの腎臓に保菌され、 尿とともに排出されます。そして、ネズミや野生動物などの尿や尿を含んだ水、土との接触、それらに汚染された食べ物や水を口にすることで、犬や人に感染します。
皮膚を通じても感染しますが、特に怪我をしている場合には、感染する可能性が高くなります。
レプトスピラという細菌は、湿気のある場所で繁殖しやすく、湿り気のある土地や淡水中の中で何ヶ月も生息できます。そのため、台風など河川の増水後に汚染された土や淡水が広がります。台風が発生する夏〜秋は注意が必要です。また、温暖な気候を好みますので、温暖な地域や春以降冬までの温かい時期に特に注意が必要です。

(6)アウトドア派はレプスピトラに注意しましょう!
愛犬とキャンプをする飼い主様、山などに行く飼い主様、川遊びをする飼い主様は、必ず愛犬にレプスピトラの予防接種をしましょう。カヌーやウインドサーフィン、水上スキーなどの活動が原因で感染している事例が増えています。
ワクチンを販売する会社により、どの予防接種でどの型のレプスピトラを予防できるかが異なります。
かかりつけの動物病院にライフスタイルを話したうえで、どの予防接種をするか相談をしてください。

多頭飼いの場合はどうする?

犬の多頭飼いをしている場合、同じ家で飼っているすべての愛犬に対応するワクチンを接種するのが基本です。1匹はシニアで1匹が元気盛りの成犬で、シニアはお留守番が多いという場合でも、成犬がウイルスや細菌を持ち帰る可能性があります
かかりつけの動物病院で、不安のあるウイルスに対しての抗体価を測ってもらったうえで、それぞれの犬について接種するワクチンについて相談することもできます。

子犬は動物病院に相談をしてワクチネーションプログラムを組んでもらいましょう

コアワクチンについては、子犬は生後6~8週齢でワクチネーションを開始し、その後、16週齢以降まで2~4週ごとに接種して抗体をしっかりつけることが世界小動物獣医師会(WSAVA)で推奨されています。
犬の飼育環境や、犬が保護犬なのか、ペットショップやブリーダーから迎えた犬なのかを獣医師に伝え、ワクチネーションプログラムを組んでもらい、スケジュールに沿ったワクチン接種をしましょう。

場合によっては年2回の予防接種が必要となることもあります

レプスピトラは、6カ月ほどでワクチン接種後の抗体価が落ちてくることがあります。たとえば、3月にレプスピトラの予防接種をしても、10月にキャンプに行く場合、ワクチンによる抗体が役目を果たしきれないことも考えられます。
レプトスピラは単体でワクチンが販売されています。キャンプや川遊びなど、アウトドアの計画を立てたらかかりつけの動物病院に相談して、レプスピトラのワクチンを単体で接種することも考えましょう。

犬のワクチン接種前後で注意すべきこととは?

ワクチンは、無毒化または弱毒化したものとはいえ病原体を体に入れるので、健康なときに接種すべきものです。治療中の病気などがある場合は、かかりつけの動物病院によく相談をしてください。
ワクチン接種後24時間以内は、顔面の膨張(ムーンフェイス)や皮膚のかゆみ、発疹、嘔吐、下痢、発熱、元気がないなどの症状が出る場合があります。これを、ワクチンの「副反応」といいます。
また、「アナフィラキシーショック」といって、ワクチン接種後数十分以内に呼吸困難や、舌や唇が青紫になるチアノーゼなどを起こすこともまれにあります。
ワクチンは午前中の早い時間帯に接種してもらい、様子がおかしくなったらすぐに動物病院に相談できるようにしましょう。
また、ワクチン接種後は激しい遊びなどは避けて、安静にさせるようにしてください。

ワクチンをしっかり打って、恐ろしい病気から愛犬を守ってあげられるのは、飼い主様だけです。かかりつけの動物病院に相談をして、しっかりとワクチンを打ってあげてください。

参考文献:犬と猫のワクチネーションガイドライン(世界小動物獣医師会[WSAVA])

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