何をやっても飲んでくれない…… 健康

【獣医師監修】犬と猫に薬を飲ませるにはどうすればいい?

動物病院で診察を受けた後、「お薬出しておきますね」と、錠剤や目薬などのお薬を処方されることがあります。でも、うちの子は上手にごっくんしてくれない……。また、上手に目薬を差せないというお悩みの声もよく伺います。そんなときはどうすれば、うまくできるのでしょう? 獣医師の小林充子先生に伺いました。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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動物病院から出る薬にはいろいろあります。

動物病院から処方するお薬には、錠剤、ノミダニ予防などに使うことが多い滴材、粉薬、目薬、塗り薬、カプセルなどがあります。
このうち、飼い主様のお悩みが多いのは、錠剤と目薬です。
錠剤は、市販のピルクラッシャーなどで砕いて飲ませてもいいものもありますが、腸で溶けるように調整された腸溶剤は砕いてしまうと胃酸によって胃の中で溶けて、効果を発揮しにくくなってしまうものもあります。代表的な腸溶剤は、制菌作用があるもの、乳酸菌などを腸に直接届けたい整腸剤などです。
また、お薬によっては、ヨーグルトやカスタードクリームなどの脂肪分と一緒にあげると吸収性が高まってしまうものもあれば、リンゴなどのフルーツと一緒にあげるとうまく吸収されなくなってしまうものもあります。さらに病気によってはお薬と一緒にあげていいものが制限されます。例えば膵炎の場合、脂肪分を控えなければいけないため、チーズにくるんで飲ませるのはあまりよくありませんし、腎臓病の場合は動物性たんぱくを制限しなければならないため、お肉に巻いてあげたりするのはお勧めできません。
いつも砕いて飲ませている、何かにくるんで飲ませているという飼い主様は、処方されたお薬がどんなお薬なのか、砕いて飲ませてもいいか、チーズなどにくるんで飲ませていいかを必ず動物病院の獣医師さんに確認してください。
今回は、飼い主様から「上手にできない」というご相談が多い錠剤と目薬について、飲ませ方、差し方を解説します。

どうして犬や猫は薬を飲まないの? 飲んだと思っても吐き出すの?

薬を手に持つと犬や猫が物陰に隠れるというのは、犬と猫あるあるです。
犬と猫は、飼い主様から発せられるオーラにとても敏感です。
「この薬を絶対に飲ませなければ……!」
という緊張感や気合が飼い主様から漂っていると、敏感に察知します。
難しいかもしれませんが、まず、その緊張感から自分を解き放ちましょう。おやつをあげる、くらいの気軽な気持ちでいらっしゃるといいかと思います。
また、苦労して飲ませたと思っても口のどこかに隠していて、飼い主様が見つけにくいところに吐き出すというのもよくあります。人なら、この薬を飲まなければ症状が改善しないと理解できますが、犬や猫にはそれができません。自分が納得していないのに、無理矢理口を開けさせられて、よくわからない美味しくないものを口に入れられて強制的に飲ませられることに抵抗を感じてしまうのです。吐き出すことに関しては、犬と猫が薬を飲み込んだと思った後、口内、特に舌の下などに薬が残っていないかを飼い主様がよく確認することが必要です。

錠剤の飲ませ方:犬編~吐き出してしまう場合は「スポイトの水」が有効です~

それでは、実際に薬を飲ませてみましょう。飼い主様に飲ませ方をお教えしたうえで、実際にご自宅でやってみていただきました。

犬の後ろから回り込み、両手で犬の上下のアゴを押さえて、上アゴを少し持ち上げるようにして口を開かせます。錠剤を犬の食道に直接落とすように入れます。このとき、犬の舌の上に錠剤を置いてしまうと、たくみに舌を使って口内のどこかに隠してしまうことがあります。食道に落としても、喉に詰まるようなことはないので、安心して落としてください。

どうしても薬を飲み込まない、という犬にオススメなのが「スポイトの水」です。スポイトは、100均ショップなどで販売されている人間用のもので大丈夫です。スポイトに水を吸わせます。

食道に薬を落としたら、スポイトでお水を舌の上に落とします。またはお口の横から流し込んでも大丈夫です。これで、水と一緒に錠剤を飲み込んでくれます。

犬の口を閉じさせたらそのまま押さえて、マズル(鼻先の部分)を上に向けます。

ごっくん、と犬が飲み込む感触がするまで犬の喉元をなでます。犬が薬を飲み込んだら、念のために口をもう一度開けて薬が残っていないかを確認します。

薬が残っていなかったら、手を離して犬をよくほめてあげてください。お気に入りのおやつをあげてもいいでしょう。おやつをあげることで、万が一食道内にお薬が残っていたとしても、おやつと一緒に飲み込めますし、また犬にとってはいいご褒美にもなるので一石二鳥と言えます。

どうしても犬が薬を飲んでくれない場合は、犬用の栄養剤などに薬をくるんで食べさせるのも有効です。

このように、栄養剤で薬をくるみます。

おやつのように、パクッと食べてくれました!
※薬を処方されたら、犬用の栄養剤にくるんで飲ませていいかを動物病院に確認してください。

錠剤の飲ませ方:猫編~注射器を使うとうまく飲ませることができます~

猫は、薬を飲ませるのが犬よりも大変です。猫は、舌の上だけではなく、咽頭の手前まで味覚があるといわれています。また、食道の筋肉も犬とは違います。犬の食道は、胃に入るまでのすべての筋肉が横紋筋ですが、猫は胃に入る手前1/3くらいが平滑筋なので、犬に比べて吐き出しやすい傾向にあります。
また、猫の舌先は苦味を感じる受容体が犬よりも多く、苦味や酸味は犬より苦手だといわれています。
猫は、「薬を飲んでもらう」ことがなによりも大事なので、シロップや栄養剤、注射器を上手に使いましょう。

薬をそのままシリンジに入れるのではなく、ペースト状のウェットフードや栄養剤、また単シロップというショ糖溶液がありますので、動物病院で処方してもらってそれらに薬を混ぜて注射器に入れましょう。ペースト状のフードなどに薬を混ぜてあげる場合は、写真のように注射器のシリンジの先を切って、薬を出しやすくしておきます。単シロップなどの液体に溶かす場合は、シリンジの先を切らないほうが飲ませやすいです。何に混ぜてあげるかによって、シリンジの先を切るか、切らないかを使い分けるといいと思います。

シリンジから猫の喉の奥に向かって、びゅっと薬を出して飲ませます。ここで大事なのは猫の顔に対してまっすぐシリンジを入れることと、スピードです。猫は1回失敗するとどんどん難易度が高くなりますので要注意です。このように膝のうえにのせると、猫の体の保定はできますが、シリンジをまっすぐに猫の顔に入れるのは難しいです。

動物病院の診察台のような、テーブルなどに乗せて投薬すると、シリンジを猫の顔に対してまっすぐに入れやすいです。ただし、猫の体を保定できないので、猫に抜け出られてしまうことがあります。

最近の動物用のお薬はよく考えられていて、とにかく飲ませやすいように形状を小さくしたり、液状にしたり、特に嫌がられる苦味や酸味は排除されているものがほとんどです。ただ、今でも処方されるお薬の70%以上は人間用のお薬です。ですので、人間用の苦いお薬が処方されることもままあります。その時はとにかく工夫して、確実に飲ませられる方法を考える必要があります。
(もちろん、猫も犬のように、動物用の栄養剤にくるんで食べさせるのも有効です。)

このような動物用の栄養剤にお薬をくるむと、うまく飲んでくれることもあるので、試してみましょう。※薬を処方されたら、猫用の栄養剤にくるんで飲ませていいかを動物病院に確認してください。

目薬の差し方:犬猫共通です~かまれる、というときはエリザベスカラーが有効です~

目薬に関しては、猫はそれほど大変ではありません。嫌がる子が多いのは柴犬で、猫よりも柴犬のほうが大変だと思います(笑)。目薬を差そうとすると噛もうとする、というときは、エリザベスカラーを付けて目薬を差すといいでしょう。

犬(または猫)を座らせて、左手であごを固定し、右手でうわまぶたを広げます。犬(または猫)の後ろから、視界に入らないように気を付けながら目薬を近づけます。右手で犬の顔の後ろから目薬を点眼しましょう。顔の前から点眼しようとすると、犬(または猫)が怖がって暴れてしまうので、注意しましょう。

目薬を差そうとすると噛もうとしてくる、というときは、エリザベスカラーを付けて同様に点眼します。

「薬を飲ませなければ……!」「目薬を差さなければ……!」と緊張せず、飼い主様もリラックスすると、犬や猫も受け入れてくれるでしょう。
皆様の幸せな犬&猫ライフを、心からお祈りしております。

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